みそを仕込む際、酵母を添加した試料としない試料を調製した。これらのみそが製品となるまでの熟成期間の各段階で、試料みそをそれぞれ採取し、先の研究で有効であったポーラスポリマーによるカラム濃縮法によって香気濃縮物を調製した。この香気濃縮物をキャピラリーカラム装着のガスクロマトグラフ(GC)により分析し、内部標準法によりみその香気にとって極めて重要なHEMF(4-hydroxy-2(or5)-ethyl-5(or2)-methyl-3(2H)-furanone)やその他の香気成分を定量した。この時、みその一般成分、特にHEMFの前駆体となりえる糖や生成条件となるPHなどの変化、酵母の菌数についても並行して検討した。みそ熟成中、水分、NaCl濃度、水溶性窒素、ホルモール態窒素の数値は酵母添加みそも無添加みそも同じ割合で変化していた。酵母添加みそでは、酵母の増殖ははじめから相当認められが、HEMFは検出できなかった。HEMFは酵母の増殖が最高に達した仕込み後14日目で検出され、その後、約2.4ppmまで徐々に増加した。酵母無添加みそでは、仕込後21日目で酵母の菌数は2.2X1O^3であるにもかかわらず、HEMFは検出され、その後3.1ppmまで急激に増加した。HEMFが検出されたときのPHはそれぞれ5.57と5.59であった。これらの結果から、酵母によるHEMF生成の活性には酵母の増殖と、あるいは酵母生育の環境が影響し、みそのような高濃度の還元糖と食塩がある場合にはPHが5.6以下になった時に始まると推測された。 みそ汁の加熱による香気の変化はヘッドスペース分析を用いて検討した。ヘッドスペース分析はTenax TA吸着剤を用い、加熱温度や加熱時間等の条件を変化させて香気成分を捕集し、これを脱着と同時に直接GCに注入する方法で効率よく行った。その結果、生みそのヘッドスペースに検出された香気成分のほとんどすべてが加熱時間5分で消失し、同時に低分子のアルデヒド類が増大することが判明した。また、数種の低分子の含硫化合物の存在が示唆され、これらがみそ汁の風味の低下の要因になっていると推測された。
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