研究概要 |
味噌汁は過度の加熱により、風味が急速に低下する。これは生味噌中の香気の減少と加熱による新たな香気の生成によるものと考えられる。そこで、味噌の香気成分として重要であるが、単離、精製されると不安定であると示唆されているHEMF(4-Hydroxy-2(or 5)-ethyl-5(or 2)-methyl-3(2H)-furanone)と、味噌の加熱臭への関与が指摘されている含硫化合物のMethionolに特に着目し、味噌汁の加熱による香気の変化のメカニズムについて検討した。試料には最も一般的な米味噌(仙台味噌)を用い、未加熱と加熱時間を変化させた味噌懸濁液からポーラスポリマーを用いたカラム濃縮法で香気濃縮物を調製した。さらに、Methionolを添加した味噌懸濁液や、HEMFあるいはMethionolを添加した、味噌懸濁液と同じpH5.0のモデル水溶液を、味噌懸濁液と同じ加熱条件で処理し、香気濃縮物を調製した。得られた香気濃縮物は、GC(FID-FPD同時分析)及びGC-MSで分析され、各香気成分の量的な変化は内部標準法によって検討した。味噌懸濁液中のHEMFの濃度は加熱開始直後にかなり減少するが、その後は30分加熱しても減少割合が少なかった。HEMF添加モデル水溶液を加熱したところ、味噌懸濁液と同様に、短時間の加熱でHEMF濃度は減少することが確認された。この時、HEMFは加熱により分解し、2-Propanone,2,3-Hexandione等を形成することが判明した。一方、味噌懸濁液中のMethionolの濃度は加熱によって大きな変化を示さなかった。しかしながら、味噌懸濁液の加熱により、Methionalが新しく形成されることが確認された。Methionol添加のモデル水溶液では味噌懸濁液と同様に加熱してもMethionolの濃度は著しく減少することはなく、また、Methionalの形成は確認されなかった。そこで、味噌懸濁液にMethionolを添加したモデル溶液も加熱し、Methonalの生成量を、味噌懸濁液を加熱した場合と比較したが、両者に大きな差はなかった。従って、味噌懸濁液の加熱によって形成されたMethionalはMethionolからの生成物ではないと判断された。
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