油脂は、乳化特性、ショートニング性、クリーミング性などの重要な機能特性を持つため、食品の調理加工過程において広く使用されると共に、揚げ調理などにおいては、熱媒体としても重要な食素材である。従って、油脂によるこれらの役割を解析することは、食生活の中で多種多様な油脂食品を活用するために、極めて意義のあることである。従来から食素材の対象となっている油脂は、分子構造の異なる多種類のトリアシルグリセロール(TG)分子種の混合物であるが、それを構成する個々の分子種の構造と調理加工特性との関係は明らかでない。本研究は、これらの問題を解明するために、種々の調理加工特性のうち、最も基本となる乳化特性に焦点を紋り、この特性とTG分子種との関係について解析を行った。まず、本研究の基本となるn__--ヘキサン系における菌体リパーゼを用いた酵素的エステル交換反応を適用して新規TG分子種の調製法について検討した。その結果、TGに対する脂肪酸のモル比率を3.5に調製し、TG1gに対して、n__--ヘキサンおよび酵素(Rhizopus japonicus NR400由来の菌体リパーゼ)をそれぞれ10ml、2500単位加えた40℃、5時間の反応が、最適反応条件であることを見出した。更に、エステル交換反応を行った後、新たに考案した減圧水蒸気装置を導入して残存脂肪酸を除去すると、高純度の新規TG分子種を大量にかつ簡便に調製することができることを明らかにした。 次に、大量調製した新規TG分子種および特徴的な脂肪酸組成を有する食用油脂(約30種類)を用いて、TGの分子構造と乳化特性との関係を系統的に解析した。その結果、TGの被乳化能は、TGの炭素数の増加に従って増加すること、不飽和脂肪酸を含むTGの被乳化能は、TGの炭素数よりもむしろ二重結合数の増加に従って増加することを明らかにした。
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