油脂は、乳化特性、ショートニング性、クリーミング性などの重要な機能特性を持つため、食品の調理加工過程において広く使用されると共に、揚げ調理などにおいては、熱媒体としても重要な食素材である。従来から食素材の対象となっている油脂は、分子構造の異なる多種類のトリアシルグリセロール(TG)分子種の混合物であるが、それを構成する個々の分子種の構造と調理加工特性との関係は明らかでない。本研究は、種々の調理加工特性のうち、乳化特性と揚げ特性に焦点を絞り、これらの特性とTG分子種との関係について解析を行った。前年度(平成4年度)は、TGの分子構造と乳化特性との関係を明らかにした。本年度(平成5年度)では、TGの分子構造と揚げ特性との関係を明らかにするために、種々の単一脂肪酸TG分子種と食用油脂を用いて、TGの分子構造特性(吸油量、脱水量、油切れ)に及ぼす影響について検討した。その結果、炭素数の長い脂肪酸から成るTG分子種ほど、吸油量と脱水量の立ち上がりが低い傾向にあること、また、油切れの経時的変化は、固体脂と液体油の二つのグループに大別され、固体脂の場合、液体油に比べて油切れの量は少なく、短時間で油切れが停止すること、さらに、固体脂の場合、油切れの量はTGの融点が低いほど多く、液体油の場合、油切れ速度はTGの粘度が低いほど高い傾向にあることを明らかにした。本研究結果は、油脂の揚げ調理特性を油脂の分子構造と関連づけて詳細に検討したもので、とかく、経験的な勘に依存している調理操作に対して科学的な視点を導入した成果である。
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