種々の食品から分離した低温菌の中で最も高頻度で検出されたグラム陰性細菌Pseudomonas fluorescensとグラム陽性細菌Bacillus psychrophilusおよびB.psychrosaccharolyticusから、増殖に必須な細胞壁合成関連酵素であるアラニンラセマーゼを精製しその酵素化学的諸性質を明らかにした。これらの酵素の安定温度域は、それぞれの細菌の増殖可能な上限温度ときわめて類似した値を示し、本酵素の温度特性は低温菌の増殖温度特性と一致していた。また、本酵素のアミノ酸組成、部分アミノ酸配列は常温菌や好熱菌由来酵素と高い相同性を示したことから、酵素の熱安定性を左右する構造的特徴を検索する目的に適していると考えられた。 本酵素の安定性を、温度、pH、変性剤、有機溶媒等に対する耐性の面から、好熱性細菌Bacillus stearothermophilus由来酵素と比較しつつ、分析した。低温菌酵素は好熱菌酵素に比べ熱安定性がきわめて低かったが、pH安定性では、いずれの低温菌酵素も好熱菌由来酵素と同様の安定性を示した。また、補酵素ピリドキサール5'リン酸(PLP)を遊離しやすい低温菌酵素は安定性も低い傾向を示し、PLPを遊離しにくい低温菌酵素は他の低温菌酵素より種々の安定性が優れていた。各種変性剤、有機溶媒の共存下では、低温菌酵素は容易に失活した。特に、エタノールは、0℃においても20%以上の濃度で低温菌酵素を著しく失活させた。さらに、低温菌に対するエタノールの殺菌効果を調べたところ、酵素の場合と同様に、20%濃度以上のエタノールは低温菌を完全に死滅させた。
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