大豆油相あるいはヤシ油相と水相間の界面張力は水相に溶けたシクロデキストリン(CD)濃度の増加とともに減少した。界面張力が低下し始めるCD濃度は水中油滴型エマルションの調製に必要な最低濃度とほぼ一致した。CD溶液の表面張力は蒸留水のと等しく、CDのみでは界面活性を示さないため、生成したCD-トリグリセリド包接化合物が植物油/水界面に配向して界面活性を示すと考えられた。β-CDは低濃度で界面張力の低下を示すことからα-CDよりも植物油トリグリセリドを容易に包接すると考えられた。CDの界面吸着量とCD1分子当たりの占有面積を実験値とGibbs'の吸着式を用いて求めた。占有面積は各CDの最大断面積の値に比べて小さい値を示した。これよりトリグリセリドの脂肪酸1側鎖当たりCDが2モル以上包接し、界面に配向していると推察した。脂肪酸1側鎖に包接した平均包接分子数(断面積/占有面積)は大豆油の場合、α-、β-CDともに2.4となった。大豆油の構成脂肪酸中、約89%を占めている炭素数18の脂肪酸長の約19.5A、CD分子の高さの7.8Aの値から計算した包接数は2.5となり、実験値の平均包接数2.4とほぼ一致した。このことを確かめるために中鎖脂肪酸で構成されているヤシ油を用いて同様の実験をおこなうと、実験値(α-CDは1.8、β-CDは1.7)と理論値(1.7)は一致した。以上より、CDとトリグリセリドの包接化合物はトリグリセリドの脂肪酸長に応じてCD包接数が決まり、包接化合物のCD部分が水相に、CDが包接していない脂肪酸残基部分が油相に配向して界面に並び、界面活性を示すことが明らかとなった。
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