研究概要 |
イワシ類の魚鱗は、きわめて剥げやすく魚港において水揚時に脱離され多量に沈積される。魚鱗は簡単に水洗され乾燥機、保存され飼料や肥料として利用されているにすぎない。近年、コラーゲンが生体高分子として広く用途開発が進み、魚鱗もこの原料の一つとして重要なものとみなされる。魚鱗は魚の年齢鑑定に利用されるため、その知見は鱗相や鱗の成長といった形態に関するものがほとんどを占め、魚鱗の成分についての検討は比較的少ない。本研究においては、マイワシSardinaps melanostictaの魚鱗の一般的性状、魚鱗タンパク質の特性および有効利用につき検討し、次のような結果をえた。(1)マイワシの乾燥魚鱗のタンパク質および全灰分の無水物に対する含有量は、それぞれ23.6%および68.3%であった。走査型電子顕微鏡による観察結果によれば、精製魚鱗は格子状に重ね合わさったコラーゲンフイブリルにより形成され、家畜の皮に見られる繊維束の交絡は認められなかった。(2)魚鱗タンパク質では、アルカリ処理3日間間で、60℃抽出ゼラチン:38.9%、全ゼラチン抽出:71.6%となり,ゼラチン抽出量が最大となる。しかし、乾燥魚鱗の場合、灰分が無水物に対し68.3%も含まれ、原料として約17%(無水物に対し)のゼラチン回収率となり余り良好な成績とは考え難い。(3)魚鱗中のタンパク質の主体はI型コラーゲンであり、ゼラチン、飼料等への利用が考えられる。これらの利用には前述のように無水物に対し60%以上も含まれるカルシウム化合物の除去が必要となる。希塩酸溶液の浸漬により短時間でほぼ大部を除去することが可能で家畜や鶏の骨に比較して、カルシウム塩とコラーゲンの複合状態が異なるものと考えられた。脱カルシウム処理を行った魚鱗は、酵素処理、化学修飾も可能でコラーゲンの生体高分子として有効利用も可能である。(4)魚鱗は独特の形状をもっているため、染色後、その形状のまま、あるいは細粉化し造型材料となる。
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