研究概要 |
ヒノキ,トドマツ(針葉樹)、ユーカリ,クスノキ(広葉樹)の葉から抽出した精油とそれらに含まれるα-ピネン,リモネン,ボルニルアセテート,シネオール,カンファーを森林大気中濃度に近い10^<-2>,1%に希釈し、その気体を5秒ラット鼻腔内に注送してにおい刺激し、1.嗅覚神経系梨状皮質ニューロンの応答,2.総頚動脈血圧の変化ならびに3.におい物質揮散環境中におけるマウスの回転計運動量を測定し、次の成果を得た。1.応答を記録した33ニューロンの殆どが7種以上のにおいに応答するゼネラリストであったが、応答型(興奮、抑制、無応答)および応答の大きさはにおいの種類、細胞により異なったことからにおいを識別していることが推測される。におい別の全細胞にしめる応答型割合は、下位中枢嗅球では精油とテルペン別に類似していたのに対し、梨状皮質では興奮型の多い群(クスノキ,トドマツ,カンファー,α-ピネン,リモネン)と無応答型が多い群(ユーカリ,シネオール,ボルニルアセテート)に分かれ、精油とそれに含まれるテルペンとは同じ群に属した。したがって梨状皮質ではにおいの質に関する情報処理の進んだことが示唆される。2.におい刺激時の血圧を観血的に測定した結果どのにおいも影響はみられなかった。今後血圧を含め自立神経系への影響は、長時間におい環境に暴露した動物を用いるなど方法の検討が必要である。3.ppb濃度の単一テルペンは運動量に影響がなかった。ppm濃度では増大し、特にシネオールは著しかった。各種テルペンが複合した精油は、ヒトに殆ど無感の、森林環境に匹敵するppb濃度で運動量増大作用があり、トドマツとユーカリが大きく、クスノキの作用は長時間持続した。高濃度では効果は減少した。ヒノキは無影響であったがこれは同濃度域で得られた梨状皮質ニューロンの応答型割合が、精油中ヒノキのみ抑制型が興奮型を上回っていることに関連するのかもしれない。
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