1)本年度の研究実施計画で、調査対象を「三高物理蔵書」と略称して、購入時期別に、(A)明治21年(京都移転)以前に購入したもの、(B)22年以後30年まで(第三高等中学校時代)の購入分、(C)それ以後(第三高等学校時代)のもの、の3グループに分類した。この全てのグループの洋書について、原簿及び閲覧カードからの基礎データの入力を終えた。さらにBグループまでは個々の図書と対応させてチェックを行った。 2)とくにAグループの洋書については、蔵書印から三高前史の経過と対応させて、購入時期を限定し、中等教育の変遷との関係を分析する事が出来た。特に、明治12年、大阪専門学校となった時期から購入図書の内容に変化がみられる。大阪英語学校の時期までは、外国語の修得によるエリート養成の一段階であったが、それに対応して物理では初等中等レベルの入門書を購入しており、それを直接教科書として使用していたと考えられる。大阪専門学校以後は、国語でエリート養成中等教育を行う方向で制度の整備が始まり、それに対応して教科書のレベルも高くなると共に、ラボラトリーレベルの実験書や、個別分野の図書の購入も始まる。 3)これらの図書の教育史的意義を考究するため、「神陵史稿本」をはじめとする三高資料を調査閲読したが、その中には明治12年以降の学校の年報もしくは一覧が残されており、目的の第三に挙げた三高以来所蔵の実験機器の教育史的・科学史的意義についても、並行して分析が可能になった。 4)調査の結果から、多量の明治期の図書や実験機器、および購入原簿等の基礎資料が一括して残されているという恵まれた状況は、国内の他の教育・研究機関に例を見ないものであり、日本の近代中等教育の成立と、その中での科学教育の展開を実証する、貴重な資料であることが、研究の着手当時よりもさらに明確になった。
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