本年度は、高齢者の歩行動作の解析に関して、とくに障害物をまたぎ越える際の動作をバイオメカニクス的に分析した。その結果、以下のことが明らかとなった。 1.青年群において、障害物が高くなるほど足部と障害物との間の距離が増大した。これは、足部を持ち上げることで生ずる身体重心の変化や単脚支持期の時間延長に対して、歩行動作における安全のための補償動作的な調整が行われている結果であると考察された。 2.後から越える脚の足部と障害物との距離は、高齢者も青年も初めに越える脚より大きかった。 3.高齢群者は、青年群よりも足部を大きく持ち上げて障害物を越えていた。 4.自然な歩行と障害物を越える場合を比較すると、高齢者群は歩行速度の減少率及び、歩幅の増加率が青年群より大きかった。 5.高齢者は、障害物を越える際の体幹の前後動揺が青年群より有意に大きくなった。 6.高齢者のつまづきの原因の一つとされる足関節背屈角度の減少は、自然歩行時よりむしろ、実際に障害物を越える場面のほうが大きくなることが示された。 7.これらのことは、高齢者の筋力やバランス能力の低下からくる補償的な調整を示すものであると推測された。
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