研究概要 |
1.平成4年度においては,全身運動時の脳電位測定方法等に関する検討を中心に行い,この結果に基づいて,運動時における誘発電位測定の基礎的な実験を行った。平成5年度においては,感覚系のモダリティ,すなわち体性感覚,聴覚,視覚系の変動を末梢系と中枢系の個々の成分にわたって検討を行い,エネルギー代謝水準の感覚系への影響を検討するという全体の目的を達成するための研究を行った。その結果は以下のように概括される。 2.運動と大脳誘発電位との関連では,第一にゲイティングと呼ばれる運動に伴う感覚経路の抑制が問題となるが,聴覚誘発電位のうち,聴性脳幹反応については明らかにされていない。そこで,最初にこの点について検討したところ,選択的に脳幹レベルでもゲイティングが生じてくることが確認された。 3.次に全身運動に伴うエネルギー代謝水準との関連からみた体性感覚誘発電位の検討を,第1に軽度な一定負荷運動で,第2にOBLAを越える強度に至る多段階運動の2条件で検討を行った。その結果,運動後半において,短潜時成分の潜時が短縮する傾向がみられた。この現象は多段階運動負荷において顕著であった。 4.同様にして,多段階運動負荷における聴性脳幹反応,視覚誘発電位について検討したところ,聴性脳幹反応では視床レベルの変動を反映する第V波に潜時の短縮が,また視覚誘発電位においては第一次成分に潜時の短縮を含むいくつかの変動パターンが存在することが確認された。 5.全体としては,血中乳酸濃度の上昇に伴い各誘発電位の短潜時成分に潜時の短縮がみられたことは,運動に伴う体温上昇が関与していることが推察されたが,同一の潜時成分によっても結果が異なったことから運動固有の変化も確認され,エネルギー代謝水準の変動は感覚機能にも影響を与えることが示唆されたものと考えられる。
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