平成5年度はギブス固定における骨格筋の回復期を中心として検索を試みたものである。固定による筋の萎縮、壊死は4週間において出現が見られる。しかし損傷はすべて同一時期に発生するものではないようで、その損傷状態は発生部位により差が見られる。これは損傷の時期がすべて同一時期ではないことを示唆するものであろう。そこで、骨格筋を人工的に薬品によって破壊し、その回復過程を経時的に検索することにより固定筋の変性、再生を詳細に知る手掛かりにしょうと考え、固定筋と同時に急性破壊筋を作成し観察を行った。 1)14週齢の雄性ラットの前脛骨筋に0.5%マーカイン400mlを筋注し、光学顕微鏡及び電子顕微鏡により経時的に形態観察を行った。ラット解剖に先立ち、血管同定を容易にするため、血管内に墨リンゲル液を注入したのであるが、この時損傷部には墨リンゲル液の流入は見られなかった。3時間後では明らかに筋線維は壊れ、細胞膜の不連続性、Zバンドの消失に始まる筋原線維の断例が見られる。ミトコンドリアは膨化して、内部の膜構造は消失する。2日目以降リンパ球、大食細胞等の遊走細胞が細胞間隙に充満し、壊れた原線維の残渣を取り込む。8日目以降遊走細胞は減少し、破壊した筋細胞内部の再生が見られる。筋細胞の外周部にあった衛星細胞の細胞質が活性化して破壊した内部に浸入し、原線維が新生されるようになる。この核は筋細胞の内部にあり、中心核をもつ再生細胞と見られる。 2)血清CK値は筋損傷を反映するものであるが、薬品注入後3〜4時間で、最大値を示し、以後暫時減少して平常値となる。 3)固定4週後の筋では部分的に損傷が見られる。この部では原線維の破壊、多くの活発な遊走細胞が見られた。一方また原線維の消失した部でも遊走細胞が僅かで中心核をもつ細胞が見られ、毛細血管の新生も見られる。 以上の結果より、固定した筋では部分的には2週目後半頃より筋の損傷が開始しているものと考えられる。
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