発育期のラットにギブス固定をすることで明らかに下肢筋の萎縮・損傷が発現し、同時に筋細胞の新生が見られた。4週間の固定後にはこの一連の現象すべてが観察されたが、損傷から新生にいたるまでの時間的な経過が明らかではなかった。そこでこの時間的な経過を明確にするため、ギブス固定によらず、局所麻酔薬により筋損傷を起こし、損傷から再生への経過をCK活性値、毛細血管動態、筋線維の損傷から再生について経日的に電子顕微鏡により観察し次のような結果を得た。 1)CK値の変化:局所麻酔薬であるマ-カイン液の注入後4時間においてCK値はピークを示し、12時間後には安静値にまで低下した。CK活性値は筋損傷中に高値を維持することはかった。これは筋細胞の損傷による形態変化と関連を示すものと思われる。すなわち薬品の注入直後には細胞膜の破壊が顕著であり、筋細胞内のCKは膜の破壊と同時に細胞外へ浸出し、リンパおよび血管内に吸収される事により、血清値は高値を示すものと見られる。 2)毛細血管の新生:正常な骨格筋に分布する毛細血管は筋細胞の間をすだれ状に流れ、ところどころで吻合する整然としたを分布を示す。しかし損傷部においては損傷筋細胞の再生に先立って損傷部周囲には活発な毛細血管の新生が見られる。ギブス固定よる筋細胞の損傷はごく局所的であるため、損傷部周辺の毛細血管は口径の細い、不安形な分布が見られた。しかし薬品により大きく筋細胞が破壊されると損傷部周辺にはこれとは異なる雑然とした毛細血管の分布がみられた。それは損傷部周辺をくまなく張り巡らすように豊富ではあるが、極めて不定形な網目を形成するが、経日的に次第に損傷部の残存血管と吻合、合流して徐々に正常な血行路を形成するようになる。 3)筋線維の変化、損傷と再生:薬品により細胞膜が破壊され、筋原線維の損傷が始まる時点ではリンパ球、マクロファージなどの活性化により損傷部の配列異常、融解状態の筋原線維が一掃され、その後に小型の中心核をもつ再生細胞が出現するようになる。電子顕微鏡の観察では筋細胞の周辺に存在した衛星細胞が中心部に侵入して活発な分裂を行い、その周囲には筋原線維の増殖が見られるようになる。損傷部における筋の再生は新生とは明らかに趣を異にするようで衛星細胞がその主役であり、培養細胞の分裂、増殖とは明らかに異なるようである。
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