児童の大脳皮質化(corticalization)と運動機能発達の加速化に着目し、神経生理学的検討を試みた。対象者は1〜12歳の男児とした。 子供の運動内容は量的及び質的に7〜8歳頃になると増加しはじめ、9〜10歳頃に急激にそれらが増加した。この調査結果を運動機能の発達変化と対応させるために、垂直とび運動の神経筋生理学的制御機構について検討した。腕振りを使わない垂直とびによる下肢筋(大腿四頭筋・下腿三頭筋)の活動パターンを測定した。垂直とび直前の膝屈伸動作を1〜3回行なう課題と行なわない課題について比較した。膝屈曲位からの垂直とび(SJ)の場合は、単純課題であるにもかかわらず1〜4歳頃まで成人の筋活動パターンに達しない。膝屈伸動作を1回行なわせる垂直とび(1‐CMJ)課題では、8歳児頃になってようやく成人の筋活動パターンに到達していた。しかし、膝屈伸動作課題を2‐CMJと3‐CMJに増加させると、成人の筋活動パータンの出現は遅延し、12歳頃になってようやく観察される。中枢の神経回路網の未発達な幼児・児童にとって、このダイナミックな単純課題の加算化は新たな運動計画(motor planning)の必要性を示唆するものである。運動計画の発達は、運動量の急激な増加年齢(12歳頃)に相応していた。この時期には運動計画を新構築する運動中枢神経系の発達が加速化されることを暗示するものである。 急激な運動機能の発達期には、中枢神経系の猛烈な活動エネルギーは増加するはずである。そこで^<31>P‐NMR(核磁気共鳴)装置を用いて、ラット脳全体の^<31>P‐NMRスペクトルを測定した。その結果、^<31>P‐NMRスペクトルはアデノシン三燐酸(ATP)、クレアチン燐酸(CrP)、無機燐酸(Pi)、乳酸、糖、コリン、N‐アセチルアスパラギン酸などのシグナルを示した。しかし、子供の^<31>P‐NMRスペクトルはラットのような顕著なシグナルを示さなかったので、化学シフトによる脳内物質の正確な同定ができなかった。けれども、12歳頃の^<31>P‐NMRスペクトルはわずかなシグナルのピークを呈した。これは脳内エネルギー物質の産生が顕著に進んでいる結果を示唆するものである。 以上の結果から11〜12歳頃の運動機能発達は、中枢神経と筋の制御システムが新たに構築させる時期に相応していることがわかった。今後、脳内のエネルギー物質の同定を詳細に検討することで、さらに運動機能発達のメカニズムが明らかになる。
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