ミトコンドリアATP合成酵素はその活性調節因子としてATPaseインヒビター、9K蛋白および15K蛋白を結合している。本研究はミトコンドリア膜ポテンシャル変化に対応してこれらの因子がどの様に酵素本体と解離会合するか、その解離会合によってどの様に酵素活性が調節されるかを明らかにすることであった。 「結果」 1)酵素本体と調節因子の解離会合はクロスリンカーを使用して決定した。ゼロレングスのクロスリンカーではATPaseインヒビターはポテンシャルの存在するとき酵素本体に結合せずポテンシャル消失時に結合する。しかし11オングストロームのリンカーを使用するとポテンシャルの有無にかかわらず酵素本体と結合することが分かった。このことはATPaseインヒビターがポテンシャルの変化に対応して酵素表面で位置移動を行っていることを示す。 2)9K蛋白はポテンシャルの存在するときATPaseインヒビターにかわって酵素本体に結合する事が酵素活性測定から強く示唆された。従ってポテンシャル変化に対応してATPaseインヒビターと9K蛋白が相互交代的に酵素本体に結合解離するモデルは今回の研究結果と一致することが確認出来た。 3)精製した酵素を用いた実験で9K蛋白の結合部位を検討した。クロスリンカーを結合させた酵素の化学的限定分解により9K蛋白とATPaseインヒビターはほとんどおなじ位置に結合することを明かにし、相互交代モデルの存在がさらに強く示唆される結果となった。
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