研究概要 |
本研究の目的は,すでに研究代表者が見い出している熱刺激後の大腸菌内でのDNAの一過的な弛緩反応のメカニズム及びその生物学的意義を明らかにする点にある。平成4年度においては,熱ショック蛋白をコードにする遺伝子,dnaK,groEL,groESの変異株では弛緩したDNAのトポロジーが元のレベルにまで回復しないことを示した。この事実は,熱ショック蛋白がDNAのトポロジー調節において機能していることを示す初めての証拠である。さらに研究代表者らは,DNAトポイソメラーゼIをコードする遺伝子,topAの変異株での熱刺激によるDNAの弛緩が,DNAジャイレースの阻害剤により抑えられることを見い出した。この事実は,この反応がDNAジャイレースにより触媒されることを示唆している。また,精製したDNAジャイレースの反応産物が,高温である程弛緩状態にあることも確かめている。これらの証拠から研究代表者は,DNAジャイレースによるDNAの弛緩反応の存在を提唱している。一方研究代表者らは,熱ショック遺伝子の変異株では,相同組み換え反応が抑えられていることを見い出した。このことは,熱ショック蛋白によるDNAトポロジーの調節が,DNAの組み換え反応を制御している可能性を提起させるものである。これまで熱ショック蛋白はシャペロンとして細胞内の蛋白の高次構造の調節にあずかることが強調されてきたが,本研究の成果は,DNAのトポロジー調節という,全く新しい面での役割を明らかにする糸口となると思われる。
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