ミトコンドリアに局在する極長鎖脂肪酸アシルCoA脱水素酵素をコードする全長cDNAをクローン化した。このクローンの持つアミノ酸配列から、他のアシルCoA脱水素酵素群よりもC末端側に約180アミノ酸から成る延長ポリペプチド部分を持つことが明らかになった。この延長ポリペプチド部分をC末端側から60アミノ酸ずつ削ったミュータントをcDNA上で作製し、各々のcDNAをワクシニアウイルス発現ベクターにくみ込んだリコンビナントウイルスを調製した。ウイルスはラットへパトーマH4への感染に使われた。感染後の経時的変化をイムノブロットで調べると、発現された全長の蛋白はミトコンドリア内に入り、安定な状態で存在する。C末端側から60アミノ酸ずつ欠いたミュータントのコードする蛋白はミトコンドリア内に入るが、全長の蛋白より安定性が劣るため経時的に分解減少してゆくことが明らかになった。またミュータントのコードする蛋白は膜結合性の性質を失って、水溶性蛋白に変じていた。さらに、二量体を形成する性質を失って、単量体で存在することもわかった。すなわち、C末側の延長ポリペプチドの機能は蛋白分子のミトコンドリア内での安定性に寄与していることがわかり、あまり例のない独特な存在量調節機構が存在することが明らかとなった。この酵素に対応するペルオキシソーム局在のアシルCoAオキシダーゼのヒトcDNAもクローン化され、C末側の延長ポリペプチド上に脱落を生じさせたミュータントを作り、発現させて解析したところ、前記の酵素の場合と同様に全長の蛋白よりもペルオキシソーム内における安定性が劣っていた。
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