研究概要 |
有核細胞生物の細胞内蛋白質のアミノ末端は、開始メチオニン(Meti)がそのまま残存している場合,それがさらに切断され次のアミノ酸がアミノ末端となっている場合およびこれらアミノ末端アミノ酸がアセチル基等で保護されている場合がある。しかし,この様なアミノ末端のプロセシングに関して,その酵素系はもちろんのことその生理的な意義については,今まで全く不明であった。本研究は,この様なアミノ末端のプロセシングに関与する酵素系を明確にし,且つその生理的意義を考察することを目的として行われた。その結果,アミノ末端プロセシングには少なくとも3種あるいはそれ以上の酵素が関与することが明らかになった。またこのうち,アミノ末端メチオニンを切断する酵素:メチオニンアミノペプチダーゼ(MAP)グリシン,セリン,アラニン等がアミノ末端に存在する場合にアミノ末端をアセチル化する酵素:N-アセチルトランスフェラーゼ1(Nat1)およびメチオニンの次に酸性アミノ酸が連る場合,このメチオニンをアセチル化する酵素:N-アセチルトランスフェラーゼ2(Nat2)について,パン酵母よりそれぞれの精製を試みた。その結果,MAPは分子量約42,000の蛋白質,Nat1は分子量約99,000の蛋白質が二量体を成形したもの,Nat2は分子量約75,000の蛋白質であることがわかった。またNat1活性の発現には,分子量約25,000のもう一つの蛋白質ARD1の介添えが必要であることも明らかになった。一方,この様なアミノ末端のプロセシングの生理的役割については,N末端則との関連から,ユビキチン系での蛋白質分解に対して負の制御に作用するものと推測された。
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