動物細胞の多くは、細胞外マトリックス基質に接着してはじめて増殖でき、その後の細胞機能を果たすことができる。これらの細胞外マトリックスの細胞表面レセプターも同定されている。本研究では、フィブロネクチンやラミニンへの細胞接着が細胞機能発現とどのように関連しているのか調べ、細胞外マトリックスによる細胞制御機構を明かにする探ることを目的とした。 1.ヒト胎盤における細胞表面レセプターの発現を組織化学的に蛍光抗体法で調べた結果、初期胎盤絨毛の栄養膜細胞にVLA5フィブロネクチンレセプターの発現が基底側に観察された。一方、満期胎盤絨毛の合胞体栄養膜細胞はVLA6ラミニンレセプターを基底側に発現していた。すなわち、胎盤絨毛上皮細胞は上皮基底膜成分に対応したレセプターを発現しており、このレセプターの基底側へのクラスタリングが観察されたことから、接着情報がレセプターのクラスタリングの形で細胞内へ伝達されていき、細胞独自の機能を発現するものと考えられた。2.3LL細胞の高転移性株と低転移性株のmRNAレベルを比較検討した結果、67K-ラミニンレセプターmRNAは変わらないがラミニンmRNAレベルは低転移性株の方が高いことがわかった。この結果から、ラミニンが未結合のラミニンレセプターが転移性に関係している可能性が考えられた。3.3LL細胞のフィブロネクチンへの接着に対し、5種類のカテキン類の影響を調べた結果、ガレート基をもつ(-)エピカテキンガレートおよび(-)エピガロカテキンガレートがこの癌細胞の接着を阻害することがわかった。この結果によって3LL細胞の転移がカテキン類で阻害されるという事実を説明できる。 以上のように本研究によって、細胞外マトリックスへの細胞接着がいかに細胞活動を制御しているかを明らかにすることができた。
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