レチノイン酸によるF9胚性癌腫細胞の分化の後期に発現誘導されるラミニンB1遺伝子の転写制御機構を明らかにするため、以下の二点の実験を行なった。 ラミニンB1遺伝子のプロモーター領域にはTATA boxがなく、TGAGCA repeat配列がコアプロモーター活性を持つことをすでに明らかにした。in vivoおよびin vito転写実験から、ラミニンB1遺伝子のプロモーターはF9細胞では活性であるが、HeLa細胞では不活性であることが示された。この細胞特異性の機構を明らかにするため、コアプロモーターに結合する分子量約120kdの転写因子のcDNAクローン単離を試みた。サウスウエスターン法でcDNAライブラリーをスクリーニングしているが、現在、目的とするcDNAクローンは単離されていない。 一方、ラミニンB1遺伝子の上流域に未分化F9細胞に特異的な因子が結合することを見出だした。その結合配列は核内受容体に属するELPのそれに類似し、分化後に出現するAP-1によるラミニンB1遺伝子転写の活性化がこの結合配列に依存して抑制されること、又、結合因子がラミニンB1遺伝子転写が誘導される時間に消失することなどから、この因子が分化後のラミニンB1遺伝子転写の誘導を制御する因子であると考えられた。この因子のcDNAクローンを単離するため、核内受容体で特に保存された領域の塩基配列をプライマーとしてRT-PCR法で未分化F9細胞のmRNAから特異的DNA断片を増幅し、プラズミッドにクローン化した。現在、各クローンの塩基配列を決定し、ノザーンブロット法で、未分化F9細胞で特異的に発現しているmRNAとハイブリダイズするクローンを選択している。同時に、RT-PCRで増幅された全DNAをプローブとして、未分化F9細胞のcDNAライブラーもスクリーニングしている。
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