前年度の研究の継続として、F9細胞でのレチノイン酸によるラミニンB1遺伝子の転写誘導の制御因子のcDNAクローニングを試みた。この因子が核内レセプターELPと類似のレセプターであると考えられるので、核内レセプター群で特に保存されているDNA結合ドメイン内の二つの領域のDNA配列をプライマーとして、F9細胞mRNAからRT-PCR法で特異的DNAを増幅し、プラズミッドライブラリーを作製した。RARなど既知のレセプターに相当するクローン以外の約200クローンの塩基配列を決定した結果、新規のDNA結合ドメインをコードするクローンを一個単離した。更に、このクローンDNAをプローブとして単離したcDNAが409アミノ酸から成る新規のレセプターをコードすることを明らかにした。このレセプターにはRARなど従来のレセプターが持つ二量体形成ドメインに相当する領域がなく、ELPなどの単量体型レセプター群に属するものと考えられた。このレセプターの結合配列を全ゲノムから単離した結果、RARやTRなどの認識配列のhalf siteに結合することが示された(論文作製中)。現在、ラミニンB1遺伝子の転写制御因子であるか解析中である。又、このレセプターの発現がbrainで特に強く検出されることから、神経系の発生、分化に関わる遺伝子群の転写制御因子である可能性も考えられ、解析を進めている。 他方、本研究中に、C-末を欠失した変異RARをコードするcDNAを単離した。transient expression実験系での機能解析から、変異RARがRARE-typeかつcell-type特異的に野生型RARのdominant negative repressorとして機能することを明らかにし、その転写抑制機序から、RARによる異なる型のRAREプロモーターの活性化がRARとヘテロダイマーを形成する細胞特異的な因子により規定されていることを示唆した(論文投稿中)。
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