レチノイン酸により内胚葉性細胞に分化誘導されるF9細胞でのラミニンB1遺伝子の転写制御機構を明らかにすることを目的とした。そのため、まずラミニンB1遺伝子のプロモーター構造の決定をした。次いで、レチノイン酸による発現誘導機構について解析した結果、上流域に存在するAP-1の結合配列に依存してAP-1による転写の活性化が観察され、レチノイン酸により分化後誘導されるAP-1の関与が示唆された。更に、このAP-1依存の転写の活性化が未分化F9細胞特異的な因子により抑制されることを見い出し、ラミニンB1遺伝子転写の誘導時期がAP-1と抑制因子の量比により決定されることを示した。この抑制因子の結合部位がELPの結合配列と高いホモロジーを示し、その競合的結合から、抑制因子がELPなど核内レセプターのメンバーであると予想された。そこで、抑制因子のcDNAのクローニングを試みた結果、RARのDNA結合ドメインおよびリガンド結合ドメインの一部と比較的高いホモロジー(60-70%)を示す新規の単量体型ステロイドレセプターをコードするcDNAを単離した。現時点では、このレセプターがラミニンB1遺伝子の転写制御因子であるかは不明である。しかし、このレセプターのmRNAが脳で強く発現していること、更に、神経細胞に分化したP19細胞での発現パターンから、神経系の発生、発達、分化に関わる遺伝子群の転写制御因子であることが考えられ興味深い。他方、dominant negative機能をもつ変異RARをコードするcDNAを単離し、変異RARがRARE-typeかつcell-type特異的に正常RARのdominant negative repressorとして機能することを明らかにした。RARが初期発生、器官形成に重要な機能をはたしているので、この変異RARの発現が発生、分化におよぼす影響について今後解析を進める。
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