研究概要 |
癌遺伝子v-jun産物(v-Jun)は転写因子として核内で働く。しかしこのタンパクの核への集積は細胞周期のG2期に最も高くなる。これは翻訳後v-Junの細胞質から核への移行がGO,G1およびS期で抑制されるがG2期にその制御を受けなくなることによる。多くの核タンパクがその分子内に核へ移行するための特別な配列である核局在信号を持つ。v-JunもDNA結合部位にG2期特異的に働く核局在信号を含む。その配列ASKS^<248>RKRKLのうちRKRKLは単独で細胞周期に依存することなく構成的に核局在信号として働き、一方ASKSは細胞周期に応答する部位であった。またv-Junの248-serineをcysteineに変えたタンパクは細胞周期に依存することなく核へ集積したことからこのserineが核移行の制御に重要と考えられた。細胞周期依存性核局在信号を含む合成ペプチドは生きた細胞の細胞質にマイクロインジェクションするとイムノグロブリンGなどの全く無関係なタンパクをG2期特異的に核へ移行できる。細胞周期応答部位のアミノ酸を各々alanineに変えたところ248-alanineペプチドだけが細胞周期依存性を消失した。248-serineの存在が核移行の細胞周期に対する応答性と対応していた。しかしASKS配列を別の良く研究されているSV40-T抗原の核局在信号PKKKRKVに結合させても細胞周期依存性核移行は認められなかった。このことはASKS単独の配列に細胞周期依存性が付与されるのではなく、Junの核局在信号RKRKLと組み合わさった場合に初めて細胞周期依存性の核移行が起こることを示唆している。248-serineを含む周辺の配列が細胞内の制御機構によって認識されている可能性が考えられる。そのような調節機構の一つとしてリン酸化の関与が今後の研究課題となろう。
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