好中球にサポニンを作用させることにより調製した透過性細胞を、活性化した百日咳毒素およびNADとともにインキュベートすると細胞膜のGTP結合蛋白質(Gi)が速やかにADPリボシル化された。このとき、細胞をあらかじめリポポリサッカライド(LPS)やザイモザン(SOZ)で刺激しておくとADPリボシル化速度の顕著な低下が観察された。この変化はGiの量的変化を伴わず、Giを細胞膜から可溶化すると認められなくなった。また、ADPリボシル化速度の低下はGiと相互作用し、これを活性化するような受容体刺激によっては再現されなかった。LPSで処理した細胞では、走化性因子(fMLP)の刺激によっておこるホスホリパーゼCの活性化と細胞内ストアーからのカルシウム動員が亢進していた。このとき、LPS処理細胞からえた細胞膜標品においてはfMLPに刺激によって上昇するGiのヌクレオチド交換、GTP加水分解反応にも亢進が見られた。従って、好中球のLPS処理は細胞内のGiの質的変化あるいはGiと他の細胞内因子との相互作用の変化を導き、この変化が百日咳毒素によるADPリボシル化速度に影響を与えているものと考えられた。 百日咳毒素は、従来、細胞のGiを不活性化する試薬として広く用いられてきたが、今後、上述したようなGiの質的変化を検出し、その機構を解明する手段としても有効に用いうるものと考えられる。
|