大腸菌の染色体DNAを制限酵素で切断後、プラスミッドpUC118に組み込んでtorR遺伝子をクローン化した(pKS7)が、3.4キロ塩基対(kbp)の染色体DNA断片が組み込まれている。 torR突然変異を持つHM177株をpUC118およびpKS7で形質転換した後、SDS‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析した結果、2種類のタンパク質がコードされていた。即ち、TMAO呼吸培養で最も強く、次いで硝酸呼吸培養、発酵培養でも合成されるが酸素呼吸では合成されない52kDaタンパク質と、上記4つの培養条件で等しく合成される27kDaタンパク質である。エクソヌクレアーゼIIIを用いたデレッションで何れかのタンパク質を合成できないプラスミッドを作成した結果、52kDaタンパク質を発現するプラスミッドpKS7D3のみがHM177株のtorR変異を回復した。 硝酸還元酵素の遺伝子オペロンnarGHJIなどの2成分系転写調節因子をコードするnarXとnarLのlacZ融合遺伝子をHM177株に形質導入し、さらにpKS7で形質転換して作成した株は、narX‐lacZ、narL‐lacZともに硝酸呼吸条件でのみX‐galを分解した。即ち、TorRタンパク質はnarXLオペロンの転写制御に働くことを示している。 52kDaのTorRタンパク質は対数増殖の後期に入ると合成量が少なくなり、torR遺伝子の転写を自己制御している可能性が高い。従って、上記のpKS7DはTorRタンパク質の大量生産に使えなかった。 今後の研究方向として、3.4kbpのDNA上に適当な制限酵素切断部位が見つからないため、部位特異的変異を導入して自己制御領域を破壊することにより蛋白の大量生産を可能にし、精製タンパク質の性質を当初の計画通りに解明したい。
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