前年度の実験で、ロイペプチン・E64cを投与したラット肝から分離した自食胞膜をさらに10mMCaCl_2で処理した後、低速の遠心で沈澱する分画(AL-H)は、自食胞膜が由来するとされる小胞体マーカー(cytochrome P450)の外、エンドゾームマーカー(マンノース6リン酸受容体)及びリソゾームマーカーを共有し、形成後間もない初期の自食胞に由来すると考えられた。5年度はこのH分画の蛋白成分の生化学的解析を行い、次の知見を得た。 1.AL-H分画を二次元電気泳動で解析し、新たに小胞体マーカーとしてBiP、エンドソームマーカーとしてトランスフェリン受容体の、二つが同定された。2.AL-Hをウサギに免疫して得られた膜抗体をAL-H分画に特異的な70k成分を認識する。二次元電気泳動で分離した膜蛋白のイムノブロットより、標的抗原はpIの異なる2つの成分に分かれ、この内主要な方は酸性の糖蛋白であった。小麦胚芽レクチンに依るアフィニティークロマトグラフィーで精製し、目下アミノ酸の1次配列の決定を試みているが、酸性の糖蛋白であるから、複合型の糖鎖を持つ可能性が高い。一方、この膜抗体全体から70kに対する抗体をアフィニティ精製し、免疫電顕に依って自食胞膜への局在を調べることを計画したが、70kの含量が少ないことと、この抗体が認識するもう一つの主要抗原が1gp120であることから、先ず1gp120と反応する抗体を抗原で吸収して除き、70k特異的な抗体のみを精製しようと試みている。3.AL-H分画に含まれるcytochrome P450は、グループ特異的な抗体によるイムノブロットで2Cタイプが主要成分で有ること、その他に2B、2Eタイプも若干含まれることが判明した。しかしながら二次元電気泳動で分離したP450のアミノ酸一次配列は既存の2CタイプのP450のものとは合致せず、新しいタイプのものである可能性が示唆された。
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