細胞の蛋白質がリソゾームで分解する過程では、rough ER由来の、細胞質成分を取り込んだ自食胞が先ず形成され、これがエンドソームやリソゾームとの融合を経てさらに熟成すると考えられているが、その分子機構は殆ど分かっていない。その最大の理由は、形成間もない、オートファゴゾームと呼ばれる段階の自食胞を分離することが難しく、その生化学的性質が分かっていないためである。ラット肝にロイペプチンやE64cを投与するとリソゾームでの蛋白分解が阻止され、リソゾームと融合した形の自食胞が多数蓄積し、これをパーコール密度勾配遠心で分離しその外側の膜を調べたところ、リソゾームと融合した後のものであるにも関わらず、オートファゴゾームが由来するとされるERのマーカーやエンドゾームのマーカーをも保持していることが示された。このことは、この膜には他のオートファゴゾーム特異的なマーカーも残存しているかも知れないことを示唆している。そこで本研究の初年度では、自食胞膜を更に分画することに専念し、AL-HとAL-Lの二つの分画を得、Hの方が、上に述べたERやエンドゾームのマーカーに富むことを明らかにした。二年目の成果としては、先ずH分画に対する抗体が認識する70k蛋白を分離し、pIの異なる二つの成分が存在することを明らかにした。この内主要な方の成分は糖蛋白で、オートファゴゾームに特異的なマーカーである可能性が高く、この膜蛋白の動態を手掛かりにして自食胞の形成の機構をさらに詳細に明らかにすることが出来ると期待される。また、H分画に含まれるcytochrome P450について詳細な検討を行ったところ、アミノ酸の配列から、これまでに知られていないタイプのものである可能性が示唆された。このことは、更に多くの実験を行って確証を得なければならないが、小胞体からオートファゴゾーム膜が派生する場合に、ランダムにでは無く、特定の部分から形成されたり、特定のP450が選択的に自食胞膜に使われる可能性があることを意味していて興味深い。これらの成果に鑑み、H分画は自食胞形成・熟成の分子機構を明らかにするための極めて有用な研究対象と成り得るであろう。
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