生体の酸化的障害は活性酸素によるDNAの酸化に始まる。現在まで、多くの研究は活性酸素誘発DNA損傷の定性的・定量的測定に置かれている。DNA損傷として多数の変性物が予想されるが、実際に検出される種類は少ない。全ての損傷はDNAラジカル誘発に始る。ラジカルの段階では種類も少なく、それ故検出・同定が容易になり、感度良く検出できる。しかしながら、ラジカルの半減期はミリ秒で、通常の方法では検出できない。このためスピントラップ法を利用した。スピントラップ法はDNAラジカルをスピントラップ剤によりトラップすることにより、ラジカルを安定化させ、解析を行う方法である。本研究では、酸化障害誘発因子としてX線を用い、DNAにX線照射によりラジカルを誘発し、2-メチル-2-ニトロソプロパンをスピントラップ剤としてラジカルを安定化させた。ラジカルの同定に対しては、染色体異常原因となるDNA鎖切断の前駆ラジカルと、発癌と関連する8-ヒドロキシデオキシグアノシン(oh^8dG)前駆ラジカルの検出・同定を試た。実験的にはより簡便化するため、10merのオリゴヌクレオチドを合成し、DNAのモデルとした。前駆ラジカルは数種類トラップされるので、オリゴヌクレオチドを一度DNA分解酵素によりヌクレオチドレベルに分解し、高速液体クロマトグラフィーにより分離した。最終的に電子スピン共鳴法により前駆ラジカルを同定した。第2の実験としてオリゴヌクレオチド鎖を^<32>Pラベルし、切断の頻度をバイオイメージアナラザーで定量し、前駆ラジカルとの定量的関係を調べた。以上の実験よりDNAの鎖切断の前駆ラジカルとして、デオキシリボースのC4'ラジカルを同定した。この成果はアメリカ生化学会誌、Biochemistry、1993、32巻に報告した。また、oh^8dGの生成についてもその前駆ラジカルと生成のメカニズムを明らかにすることが出来、現在同学会誌に投稿中である。
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