本研究では、現在開発されている紫外線や化学変異原によるDNA損傷の修復をDNA修復合成により検出する系を発展させ、電離放射線損傷を受けたDNAの修復を調べる系を開発することを目的とする。これまでに開発されている無細胞複製系や無細胞転写系を参考にして動物細胞の抽出液を基本に無細胞系を構築を試みた。基質としては、電離放射線照射したプラスミドDNAを用いる。修復の指標として、(1)DNA鎖の切断の再結合(電気泳動による分子量の変化の検出による) (2)プラスミドDNAの転写能の電離放射線による阻害からの回復(転写産物の定量による) (3)DNA複製の電離放射線による阻害からの回復(細胞抽出液処理後のプラスミドを基質として大腸菌由来DNAポリメラーゼを用いてDNA合成を行う)の4点について実験を試みた。照射の方法としては、in vitroで照射したDNAを基質として系に加える方法と細胞抽出液とDNAを混ぜた状態で低温下で照射し、37度下に移して、修復過程を調べる方法を比較する。その結果現在の系では、いずれも修復過程の検出には大線量(100Gy以上)が必要であることが分かった。また、照射DNAの取り扱いが系の安定性に重要であり、大量の細胞抽出液が必要であることが現在の課題となっている。Lindhalのグループが昨年度発表した無細胞系を用いた電離放射線によるDNA鎖切断の回復をみる系ではいくつかの重要な知見が得られており、これを参考に系の改善を進めている。
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