昨年度の研究により、モンゴリアンジャービルにより分離された初代培養細胞は、他の哺乳類動物由来細胞のものに比べて、X線による細胞致死や染色体異常誘発効果が著しく低いことがわかった。そこで本年度は、X線の細胞周期進行阻害効果に関して同様の比較実験を行なうとともに、不死化したジャービル細胞についてもX線の感受性を調べた。まず、サイトフルオロメータを用いて初代培養細胞の細胞周期分布を調べたところ、細胞種間で細胞周期の各期の長さに大差は認められなかった。しかし、2GyのX線照射によるG2期の遅延時間は、ジャービル細胞が1.6時間であるのに対して、ヒト細胞では6.2時間、他のゲッ歯類の細胞ではちょうど両者の中間の値を示した。次に、このようなジャービル細胞の性質がこの細胞の遺伝的特性によるかどうかを確認するため、不死化した段階(継代30代目および60代目)の細胞についてX線の生存率曲線を求めた。その結果、いずれの細胞も継代培養に伴いややX線感受性が高くなるももの、ジャービル細胞はマウスやラット、チャイニーズハムスター、シリアンハムスター細胞に比べて高いX線抵抗性を示すことがわかった。一方、これらの細胞のDNA二本鎖切断とその修復能を調べたが、動物種間で有意な差は認められなかった。また、ジャービル細胞は紫外線に対しても抵抗性であったが、紫外線損傷修復能は他の細胞と比べて高いとは言えず、ジャービル細胞の放射線抵抗性はDNA損傷修復能では説明できないものと思われる。さらに、混合培養や細胞融合法を用いてジャービル細胞の放射線抵抗因子の検出を試みたが、明確な証拠を得るまでには至らなかった。以上の結果は、ジャービル細胞の放射線抵抗性はDNA損傷修復能よりも、むしろその反応に関わる補助因子、あるいは放射線に対する特異な適応反応によることを強く示唆する。
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