古くから、モンゴリアンジャービルは電離放射線に対して高い抵抗性を示す動物として知られている。本研究では、モンゴリアンジャービルの放射線抵抗性機構を明らかにするために、胎児由来細胞を用いてX線による生物作用を調べ、他の哺乳動物胎児由来細胞と対比しながら解析した。その結果、ジャービル細胞はX線による細胞致死や細胞周期進行阻害、および染色体異常誘発効果が著しく低いこと、さらにこれらの生物反応を指標とした場合、各細胞種間で見られる放射線感受性差は個体レベルの放射線感受性差とよく対応することがわかった。興味あることに、胎児から分離した直後の初代培養細胞に限らず、不死化したジャービル細胞株もX線に対して高い抵抗性を示した。このことは、モンゴリアンジャービルの放射線抵抗性は個体特有の現象でなく、その動物個体を構成する細胞自体の遺伝的特性によることを示唆する。そこで次に、ジャービル細胞の放射線損傷修復能について調べた。しかし、ジャービル細胞と他の哺乳動物細胞との間には、X線により誘発されるDNA二本鎖切断数および修復能に差異は認められず、また、紫外線に対しても同様の結果が得られた。すなわち、ジャービル細胞の放射線抵抗因子は、ある特定のDNA損傷に対する修復因子というよりも、むしろその反応に関わる補助因子、あるいはジャービル細胞の構造的な放射線耐性機構によることがわかった。実際、感受性の異なる細胞と混合培養や細胞融合実験を行なったが、異種間で放射線感受性に影響を与えるような因子は同定できなかった。今後は、ジャービル細胞の構造的な放射線耐性機構を調べるとともに、放射線による細胞の適応反応についても解析することが重要である。
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