原子力プラントの診断システム性能の飛躍的な向上を目的として、プラントの動的挙動を診断効率を最適にする[事象-症候]対応知識として集約、整理する手法の開発を行った。具体的には、機能分散システムを構成する多数のニューラルネット群が協調的に診断を行うマルチエージェント型診断機構の枠組みを設定し、このシステムの診断性能と着目症候との関係を分析することを通じて、知識構造の解明と体系化の可能性を追求した。ニューラルネットの構築には、これまでの予備的検討の結果その有用性が確認されている適応型構造学習アルゴリズムを採用し、また系統的、包括的な異常事象シミュレーションには既開発の加圧水型原子力プラント動特性解析用コードを利用している。基本異常事象34事例、これに摂動や雑音を重畳した拡張異常事象136事例という多数の事象群に対し、系統的な数値実験を実施し、以下のような成果を得ている。 1.従来の中心的方式であった空間的な症候記述に加え、主要信号の時間的挙動に着目する時間的症候記述、複数の変数の相互関係を記述する相関的症候記述を導入し、それらの異種症候記述各々につき固有の診断性能を明らかにした。 2.これら相互に独立性の高い異種類の症候記述を相補的に利用する、情報ダイバーシティ方式を提案し、これにより診断の性能が従来の方式に比べ格段に向上することを確認した。 3.情報ダイバーシティ実験の実用的な方式として、本研究で提唱した多数ニューラルネット群による協調的問題解決機構は柔軟性、拡張性が高く、対象の規模を実用レベルに拡大した場合にも十分対応可能である見通しが得られた。以上の結果から、将来の診断システムが着目すべき知識の構造とその獲得方法について、明確で重要な知見を得ることができたと考える。今後はさらに大規模なシステムを対象として手法の有効性が検証するとともに、多数のニューロエージェントの判断を統合するより合理的な手法の構築を図る計画である。
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