平成5年度は、大雪山中央部の高根ケ原(標高1700m以上)を中心に主に気温、日射量の測定(夏季)、地温の測定(秋季)、植生調査などを実施した。 気温測定では、前年度からの継続により通算1年間以上のデータを蓄積することができた。その結果、永久凍士の存在が確認あるいは推定されている高根ケ原では、平成4年10月〜平成5年9月の年平均気温-3.0°Cが記録され、改めて気温面から永久凍士の存在が裏付けられた。平成5年は、全国的に冷夏に見舞われた。高根ケ原の気温観測でも7月、8月の気温(それぞれ10.2°C、11.1°C)が前年に比べ約1°C低下している。しかし、夏季に行なつた日射量の測定では平成4年と5年の値にほとんど差はなく、大雪山の場合、気温低下の原因は、日射量不足よりも冷気そのものの流入によると見るべきであろう。このような気候条件や気候変化は、大雪山では永久凍士の存在や消長に大きな影響を及ぼすことは明らかである。 気温条件から見ると、大雪山地域は、永久凍士不連続帯に位置付けられる。したがって、積雪、植被条件なども永久凍士の存否に大きく関わってくる。そのような観点から、活動層が最大になる秋季に、一定深での地温測定を広範囲で実施した。その結果、比較的積雪が少なく、しかも、地衣類や矮小低木などによるマット状植生やハイマツ群落に覆われた地点で100cm深の地温が0°Cに近い値を示し、凍士の存在が示唆された。一方、風衝砂礫地では、比較的高温を記録した所が多かった。 植生調査をパルサ湿原において実施したが、コケの同定が未了であり、最終的なまとめには、なお時間を要する。しかし、本調査において日本新産のコヌマスゲを発見した。このことから、大雪山では永久凍士の存在が、植物にとって特異な生育環境を生み出していることが明らかとなった。 さらに、地生態学的見地から、風衝地における障害物(岩やスゲ属の株)の風背側の植物配列が、卓越風向推定の指標として有効であることを明らかにした。
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