我々はこれまでに、短縮中には等尺性収縮中と比較して、細いフィラメントとミオシン頭部との相互作用が弱まっているにもかかわらず、ミオシン頭部は細いフィラメント周辺に留まっていることを示した。この実験はin vitro系での実験との比較を念頭において行なわれたため、無負荷短縮状態という極限状態で行なわれた。しかし、生理学的な観点からは、このような相互作用の変化が短縮速度や張力とどのような関係にあるかが興味深い。そこで今回は、適当な負荷をかけて短縮速度を制限した状態で、同様の構造変化が生じるかどうかを検討した。 X線源には、筑波高エネルギー物理学研究所の放射光実験施設のシンクロトロン放射光を用いた。試料としては4℃のリンゲル液中に置いた食用がエル縫工筋を用いた。短縮前のサルコメア長を約2.6μmとし、20Hzの電気パルスで刺激した。等尺性収縮が最大に達したのちに筋の一端を固定していた糸を解放し、筋長の18%だけ短縮させた。このとき糸に適当な重りをつないでおくことにより、最大短縮速度の約4分の1程度の短縮速度とした。張力は等尺性収縮時のX線回折像を、時分割イメージングプレート電光装置で記録した。 この実験では短縮速度は等尺性収縮時の4分の1程度、張力は同じく10-15%であったが、等尺性収縮時と比較した時のX線回折像の変化は、最大速度での短縮時と定性的には同じであった。すなわち、最大短縮速度で見られたような強度変化が、どの反射についても観測された。しかし、全体に変化は小さめで、短縮に伴う構造変化が、短縮速度や張力と相関して生じていることを示している。
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