研究概要 |
本研究では、哺乳類転写調節因子と標的DNAとの相互作用を特異的にトランスに抑制する生体物質を選択する系の構築を目指しているが、本年度は、大腸菌内で哺乳動物Oct転写因子と標的DNAとの相互作用をモニターする試験株の開発を達成した。ラクトースオペロン制御領域のオペレーター部位にOct転写因子標的DNA配列を挿入した改変ラクトースオペロン制御領域をプラスミド上で作成し、これをλファージベクターを用いて大腸菌染色体上に組み込み、Oct転写因子と標的DNAの相互作用をモニターする大腸菌試験株を作成した。この試験株は、X-Galを含む寒天培地上で青いコロニーを形成するが、その菌内でOct転写因子ファミリーに属するOct-2,Oct-3,Brain-6を発現させると白いコロニーを形成するようになる。これはOct転写因子が改変ラクトースオペロンに対してリプレッサーとして機能し、β-ガラクトシダーゼの転写を抑制するためと考えられ、試験株が計画通り動いていることを示す。Oct転写因子は、POU特異的ドメイン、ホメオドメインと2つのDNA結合ドメインを持つが、Oct-3のこれら2つのドメインに欠失やアミノ酸置換を持つ多数の変異体シリーズを作成し大腸菌内で発現できるようプラスミドベクターにクローニングした。これらDNA結合領域変異体のうちDNAとの結合に関与すると考えられるアミノ酸残基の変異の多くは、上記試験株で観察されたβ-ガラクトシダーゼの発現抑制は観察されなかった。一方、ホメオドメインを欠失しPOU特異的ドメインのみを持つ変異体でもある程度の発現抑制活性を残しているという興味深い結果が観察され、POU特異的ドメインのみでもin vivoでDNA結合活性を持つことを示唆する。今後、この試験株を用い、野生型Oct転写因子のDNA結合を特異的にトランスドミナントに抑制する変異体を選択していく。
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