本研究では情報伝達に関わる機能分子が最も明らかにされている光信号受容系を取り上げ、信号受容、調節に伴う機能分子の分子内および分子間の相互作用の実体を明らかにすることを目的とした。特に光受容体ロドプシンと直接相互作用する機能分子に注目し、次の点に焦点を絞って研究するように計画された。しかし、無脊椎動物系での光情報伝達の「役者」が脊椎動物のものとは異なっていることが明らかになってきたので無脊椎動物系での「役者」を揃えて、それらをキャラクタライズするという点に研究の重点がシフトした。本給によって、得られた成果の主なものを以下に挙げる。 1.タコロドプシンの新しい光反応中間体の存在が示唆された。この中間体はその寿命からもG蛋白質との反応に関与している可能性がある。2.タコロドプシンにおいてまったく新奇な糖鎖構造を見いだすことができた。3.タコの視細胞では複数種のG蛋白質αサブユニット遺伝子が発現している。脊椎動物で光応答に関与しているGtクラスのG蛋白質は見いだされず、タコはちがうG蛋白質を用いていることが示唆された。4.ノーザンブロットの結果からはGqクラスのG蛋白質が眼特異的に発現していることが示された。5.βサブユニット遺伝子については今のところ眼に特異的なものは見いだされていない。すべての組織で同じように発現していることがわかった。6.昆虫培養細胞を用いた発現系が利用できるようになった。7.タコロドプシンの退色、再生系を利用して、種々のロドプシンアナログ色素をつくることができるようになった。8.脂質小胞での再構成系でロドプシンとG蛋白質の光に依存した反応を再現することができた。その結果、視細胞由来の二種のG蛋白質、GipとGqpとがロドプシンと共役できることが分かった。
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