平成5年度の講義では、「物質を理解するための化学」、「日常現象を理解するための化学」、「生命現象を理解するための化学」の三つのテーマを用意した。講義においては、表や図をしめし、そこからどんなことが考えられるかということを質問あるいは議論させる方法を多く取り入れた。学生にまず考えてみる癖を養うためである。一例として「日常現象を理解する化学」を上げる。5年度は「染める」という講義を中心に話を進めた。「染める」は、色と分子構造、色とスペクトル等を考えることから、電子やそのエネルギー状態の話に結びつけることができ、染色からは、染色浴における平衡、染料と被染色体との間の分子間力の話をすることも可能であり、かなり面白い講義が出来た。また、このテーマでは、染色実験、染料合成、染料のスペクトル測定等幾つかの実験の導入が行えた。それらの実験や講義を通じて、化学における結論の導き方を学ばせた。一方教養演習では金柑の芳香成分の分析実験を行なった。GLCを用いて分析する場合に、測定温度や使用するカラムの液層が分析結果にどの様な影響を与えるかを実験させた。また、芳香成分の分離方法の相違にそる分析結果への影響等についても検討させた。さらに、芳香成分の一つを合成させ、その変化をTLCでおわせた。展開溶媒や検出方法を変化させ、TLC分析におけるそれらの重要性を認識させた。一つの分析手段、あるいは一つの分析方法から得られたデータだけで結論を導き出す危険性を学ばせることが出来た。これらの実験による学習は、総合的判断力の養成にはかなり有効な方法である。しかし、この方法を取るためには、限られた人数の講義である必要がある。
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