研究概要 |
音楽の療法的価値は、医学的矯正治療の諸方法に対して、音楽が独自の助力を提供できる点にある。しかし、依然として音楽療法の有用性については、あまり明確に論じられていない。そこで本研究では、医師、特に精神科医の助言のもとに、痴呆性老人に対して音楽療法を実施し、音楽療法の有用性を明らかにすることを目的として臨床実験を行い以下の成果を得た。 a)老人医療における音楽の扱いとその問題点・可能性:多くの老人施設での音楽活動は想い出の曲を使って記憶を賊活させることを目的として行なわれている。しかし、音楽の取り扱いを間違うとマイナス効果をもたらす例を数多く観察できた。 b)音楽療法の効果測定と評価基準:音楽療法制度が確立されていないわが国で、その確立のために努力している音楽療法家の手法だけを取り入れた音楽療法は、人格まで点数化してしまったり、客観性をもたせるために患者の微妙な反応を見落したりという、評価のための音楽療法になってしまう危険性をはらむ。それだけ評価は難しい。しかし、音楽療法を実施する際に必ず行なわなければならないことがある。それはアセスメント(査定評価)とドキュメンテーション(記録)である。 c)教員養成大学での音楽療法に関連した授業の展開:無作為に選んだ人々の音楽に対する意識調査を行い、偏った音楽観しか持っていない教師によって受けた屈辱感,劣等感が原因で音楽恐怖症になったという多くの人々と出合う。音楽教育の見直しの必要性を感ずる。 d)今後の音楽教育のあり方:老人医療や生涯学習の視座から考察を続けた結果、これからの音楽教育者が如何に幅広い音楽観をもたなければならないか、という結論を主張すべきひとつの方向性をみた。
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