本研究の目的は、随意運動障害をもった人への自己制御能力を高めるためのマルチバイオフィードバック法の有効性を検討することであった。 理論0)マルチバイオフィードバック法の理論的検討-動作法との比較から:マルチバイオフィードバック法をヒューマン・マシンの観点から捉えなおし、徒手による動作訓練との対比で整理し検討した。動作訓練とマルチバイオフィードバック法の相違を、(1)他動の原理(2)フィードバックの原理(3)フィードフォワードの原理(4)対象の限定(5)熟練化の問題の5つの視点から整理検討した。マルチバイオフィードバック法はセンサ精度が優れ再現性が堅固であるが、動作訓練に比べ柔軟性に乏しいことを指摘した。 実験1)姿勢緊張のタイプと情報処理過程に関する実験:膝が反張タイプの脳性マヒ児と屈曲タイプの脳性マヒ児に対して立位姿勢フィードバック装置によりマルチバイオフィードバックの効果を検討した。その結果、反張タイプの脳性マヒ児も屈曲タイプ同様マルチバイオフィードバック法が効果的だと云うことがわかった。 実験2)マルチバイオフィードバック法による集中訓練の効果:1名の脳性マヒ児に対する立位姿勢フィードバック装置を用いた集中訓練を実施した。その結果、3セッション目で著しい伸びを示し、次に7セッション目でさらに顕著な伸びを示した。 実験3)姿勢と重心の2重フィードバックによる立位姿勢の変化に関する実験:重心のみをフィードバックする条件では、姿勢の歪みを引き起こすことが示された。 実験4)Rett症候群児の手の随意運動形成のためのビデオフィードバック法に関する実験:重度の随意運動障害をもつ9歳のRett症候群児に対し、マルチバイオフィードバック法により手の随意運動の形成を行った。自発的手動作の出現と同時にVTRがONとなるフィードバックが与えられた。手合わせなどの常同運動しかなかった被験児がマルチバイオフィードバック法により手の随意運動を獲得した。フィードバック様式は、被験児が興味を示す幼児番組のVTRとした。
|