この研究の目的は日本人の日常知を「いろはかるた」を通して社会学的に明らかにすることにある。論理的、専門的な知識は主としてフォーマルな教育機関における学習によって習得されるが、日常の知識は生活体験をもとに獲得される。「いろはかるた」は子供のかるた遊びによって自然と形成されたものであるが、急速な近代化はその機会を減少させ、「いろはかるた」はその機能を失いつつある。 しかし日常の会話や表現に「いろはかるた」が使用されることはあり、その日常知としての意義と機能を失ってしまったとは言いがたいのではないかと考えられる。このことを明らかにする為に、前年(1993年)度は、(1)「いろはかるた」とはどのような日常知であるのか、あるいはあったのか、その日常知性を訊ね、(2)日常知がどのような構造を有しているか、(3)諺、俗言等の日常知の種類と「いろはかるた」のそれを分析し、(4)「いろはかるた」の社会学的意味を考察した。 今年度は先の知見を基にして、その延長線上に次の4点に焦点をあてる研究を試みた。(1)「いろはかるた」はどのような形で存在するのか。(2)短縮形の表現や諺、俗言との関連性による「いろはかるた」の意味の曖昧さとその使用、伝承の問題、(3)年令、性別、職業が多様である、佛教大学通信教育学部の学生を対象として調査し、現代人の「いろはかるた」への関心と理解の程度と、その特徴を明らかにした。(4)その結果をもとにして、現代における「いろはかるた」が日常知としての機能を減少させていることは否めないにしても、日常生活において使用されており、そのことがどのような社会学的な意味をもっているかを検討し、今後の「知の社会学」への研究に展開していく視点を考察した。
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