本研究では、中年齢段階に達した小・中学校女性教員のキャリア形成の過程を、彼女たちのアイデンティティーの分化と関連づけて実証的に明らかにした。 この場合、比較群として男性教員、ならびに若年齢と高年齢を選び、平成4年度に三重県内小・中学校教員に質問紙郵送調査を実施し、937名から回答を得た。また上記の比較群に配慮して選定した56名の教員に対し、平成5年度に面接調査を試みて考察を質的に深めた。 調査の結果、明らかになった内容は次の点である。 1.若年齢段階で生徒への教授・指導に困難性をより多く感じていた中年齢女性教員は、この面での見通しが一層利くようになり、問題を解決する対処法を種々案出するようになった。 2.生徒の両親や同僚教員との関係では、困難点や限界性をより強く意識するようになり、彼女たちはこれらの事態に対処すべき新たな課題に当面するようになった。 3.教織生活において、男性教員より以上に「危機」に遭遇することの多い女性教員は、彼女たち自身の意味付与により「危機」を克服する過程で、各自のアイデンティティーを再編するように迫られる。その結果、彼女たちはアイデンティティーをさらに複合的に分化させながら固有のキャリアを形成していく。 4.これまで多数が指向してきた「教育実践型」と「家庭・学校両立型」の外に、本人たちの実績にもとづき「学校経営・管理型」への指向性を抱くものが次第に増加する一方で、若年齢段階に比べ仕事が質、量ともに増大してきたために「個人充実型」指向の後退を余儀なくされるものも少なくない。
|