本研究の目的は、新任期を経て中年齢期に達した女性教員のキャリア形成の様態を実証的に明らかにすることにある。この場合、比較群として男性教員、ならびに若年齢および高年齢教員を選定し、平成3年7月に三重県内小・中学校教員に質問紙調査を実施し、937名から回答を得た。また上記の比較群に配慮して選んだ56名の教員に対し、同4年6月から翌5年10月に渡り面接調査を試みて考察を深化させた。これらの調査から得た研究成果の概要は、次のとおりである。 1.若年齢期に教授・指導面での見通しが利かず困難性をより多く感じていた女性教員は、中年齢期の現在、この面での問題を全体の中に位置づけ背景的・相対的にみていく構えを身につけ得るようになった。 2.同時に生徒の両親や同僚教員との関係では、困難点や限界性を一層強く意識するようになり、とりわけ生徒指導の背景を規定する両親たちの価値観との葛藤など、新たな課題に当面するようになる。 3.教育現場に根強い性別役割観によって、彼女たちは男性教員とは異なる固有のキャリアを形成しようとしている。その多くはリーダーとしての男性教員に対するフォロワーとしての女性教員の地位役割に規定されるのであるが、たとえば生徒指導面では従来の「腕力」による方法ではなく「感性に訴える」女性の持味を生かした方法が有効な力を発揮するなど、ジェンダーの視点から成るキャリア形成を認め得る。 4.客観的構造や私的領域による拘束から、男性教員以上にアイデンティティーの危機にされされることの多い彼女たちは、本来的な自己充実に向かうアイデンティティーを確保するために自らのライフコースに照らしてその生き方に意味づけしつつ、男性教員とは異なる、固有のキャリアをつくり上げようと努めていることが明らかに理解できる。
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