初年度の研究計画では、1.申請者がすでに収集したスリランカと南インド社会における女神崇拝の一次資料の整理、分析、2.文献報告を吟味して南アジアにおける女神崇拝の性格および構造を抽出、3.文献目録の作成、4.女神崇拝の通文化的な比較を可能とするデータベースの作成、の4つが主要な実施項目であった。1と2について。スリランカとインドの女神崇拝を儀礼に限って比較する場合、いかなる視点が有効かを考察し、口頭で発表した。次年度には論文としてまとめる。まず、儀礼において女神と男神との関係がいかなるものか(前者が後者に依存しているか、自立しているのか)、つぎに儀礼の中に日常生活を律する秩序に対立するような要素を認めることが可能か、そうした要素の占める割合はどの程度のものか、それとも秩序を強化するような局面が強調されているのか、といった観点から、自立・依存の軸と反秩序・秩序の軸を設定して資料の分析を試みた。反秩序的な要素が高く、女神の自立性が強い場合が、従来報告されている民衆ヒンドゥー世界の女神祭祀と言える。これにたいし男神への依存性が強調され、反秩序的な要素が認められないものに伝統社会のエリートたるバラモン世界の家庭祭祀をあげることができる。女神の性格が崇拝者の社会的な地位や女性の地位と密接に関係しているということがここから推測できる。3と4については継続中である。また女神研究の意味を明示し、通文化的な視点を確立するために、現代北米社会における女神崇拝とその思想的な背景について小論を発表した。さらに、女神崇拝を南アジア社会に特徴的な母子関係との関係で説明しようとする心理学・精神分析学的な立場についても批判的な考察を準備中である。
|