1.女性学の発展とともに社会における女性の地位や父権的な社会構造の解明は進展したが、経済、政治の領域に比べると、宗教の領域、とくに非西欧社会の宗教とそこに現れる女性の表象や女神がいかに現実社会の女性観、女性の地位と結びついているのかという議論は始まったばかりである。本研究は、以上の問題意識のもとで、(1)スリランカとインドでの調査資料をもとにヒンドゥー社会の女神崇拝を分析すると同時に、(2)関連文献を吟味して南アジアの女神信仰について理解を深め、(3)より一般的な視点から宗教とジェンダーやセクシュアリティの関係を分析することの三つの目的とした。当初の目的が十分に達成されたのは(1)である。2.(1)については、調査地の女神崇拝をいくつか比較した。その際、女神が自立しているのか男神に依存しているのかという、自立の度合いを示す軸を縦軸にとり、儀礼において日常の社会規範に対立するような反構造的性格の強さを横軸にとった。そして、さまざまな女神崇拝を位置づけることで、それらと信者集団の性格との連関を論じた。3.(2)については、文献資料を収集し、文献目録を作ると同時に、(1)での分析の適用を一部の女神崇拝に試みた。また現代欧米の女神崇拝運動について分析をした。3.(3)については、アルチュセールのイデオロギー論に依拠しつつ女神崇拝のメカニズムを抽出するように試みた。4.今後は、(2)の文献資料をさらに幅広く収集し、より厳密な分析を行うと同時に、ヒンドゥー教だけでなく、仏教やインドのキリスト教における女神崇拝についても考察を深めたい。また(3)についても異なる観点からの理論化を探りたい。
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