研究概要 |
1.最古の弁論家アンテイフオンの作品を翻訳することを通じて、断片的作品しか残っていないアーケイック期の史料を理解する一つの土台を築くことが出来た。特に『四部作集』を通じて、殺人に関わる宗教的観念を知ることが出来た(このあたりは、総合研究A「西洋古代における習俗・文化と社会意識」での研究と重なり、そちらの報告書に結論を述べた)。また、この過程が導入したコンピューターの扱いに習熟することが出来、その威力を実感することも出来た。 2.M.Stahl,Aristokraten und Tyrannen im archaischen Athen,1987を通じて、アーケイック期に関する史料の理解に口承性ということが重要であることを知った。彼が主として論ずるのはヘロドトスについてであるが、私が史料として重要視しようとしている抒情詩もある一定の聴衆を念頭にその場で歌われたものであって(書かれたのではなく)、とすれで口承性ということが史料の性格をどのように偏向させるかをあらかじめ考慮しておく必要があるだろう。そこで、E.A.Havelock,The Literate Revolution in Greece and Its Cultural Conse-quences,1992やR.Thomas,Oral Tradition and Written Record in Classical Athens,1989を読み、これがギリシア史の全体に関わる大きな問題であることを認識した。 3.そこで問題を少し広げて、口承性がギリシア史研究にどのような問題を投げかけるかを考えてみた。以下項目だけを挙げれば、次のような問題が切り開かれたと言えよう:(1)文字・識字率・本(2)口承的な社会と文書社会との違い(3)口承的な作品の解釈の問題(4)口承に対する態度の問題。そして次のような問題が史料を理解する上に考えねばならないこととして浮かんでこよう:(1)伝承の変形と定着(2)碑文と文書館。
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