本研究の課題は、1923年に古河鉱業とドイツ・ジーメンス社との合併企業として成立した富士電機株式会社が、1935年に富士通信機工業株式会社を、1972年には富士通ファナック株式会社を分社化独立させ、その2社がコンピュータとロボティクスのハイテク分野で巨大企業へと成長していった要因について分析し、次にその成長の軌跡をドイツ側の親企業であるジーメンス社の成長戦略と比較することによって、日独企業の比較経営史的な分析を試みようというものであった。 IBMに次ぐ、世界第二位の大型コンピュータ・メーカーとなった富士通、その富士通から独立し世界最大のロボット・メーカーとなったファナック、この両社の成長要因は基本的に組織を小さく分社化し、現場の管理者・技術者に大きな裁量権と責任を与えた組織とマネジメントの革新性にあったといえる。特に、コンピュータやロボティクスのように技術変化が激しく、市場ニーズの絶え間ない多様化に直面する産業にあっては、いかに組織を小さく自律性のある状態におくかが重要な経営課題であった。この研究成果はロンドン経済大学(LSE)の学会報告で発表され、多くの賛同が得られている。 一方、ドイツ・ジーメンス社は分社化戦略をとらずに巨大企業のままハイテク分野に進出した。ジーメンスのとった基本戦略は利益重視型成長であり、採用された組織は事業部制であった。しかし、コンピュータ事業分野で日本の合弁相手に比較すると、大きな遅れをとることになった。勿論こうした差異は利益重視型経営といったドイツの経営風土からくる安定的成長戦略の結果でもあるが、やはり巨大企業体制の限界を示したものと言えよう。
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