今年度本研究課題及びその関連テーマについて口頭発表及び学術雑誌に投稿した研究成果は次の3件にまとめられる。 1.線形計画問題に著しい進展をもたらしたカーマーカーの内点アルゴリズム(いわゆる、射影スケーリング法)を連続化して得られるカーマーカーの力学系がラックス対表示を許容する一種の非線形可積分力学系であることが明らかになった。同時に、その解の具体的な表現が導かれ、解の指数関数的な収束性と平衡点の分類が報告された。 2.情報幾何学、すなわち確率分布のパラメータ空間の微分幾何学と非線形力学系の関わりが初めて考察され、正規分布空間及び多項分布空間上のカルバック・ライブラーダイバージェンスに関する勾配方程式が完全積分可能なハミルトン系をなすことが証明された。さらに、解の具体式とともに、勾配系のラックス対表示も見いだされた。 3.ある種の神経回路網によるヘッブ型学習モデルを定式化し、確率変数の平均化を経て可積分な非線形ハミルトン系が現れることを初めて指摘した。また、競合学習が方程式の第1積分として実現されること、モデルの学習則と平衡点への推移の関係などを明らかにした。 以上の成果は日本数学会、非線形制御情報処理研究会、ニューヨーク大クーラン数理科学研究所、微分幾何学小研究会、京都大学数理解析研究所、お茶の水女子大、早稲田大非線形数理シンポジウムなどでの講演を経て、現在大部分が学術雑誌に投稿審査中である。また、計測自動制御学会誌、応用数理学会誌において解説された。これらの論文に共通するテーマは中村によって提唱された「非線形可積分系の応用解析」の有効性の検証である。数値解析や近似手法に頼ることなく種々の非線形問題を解析する新しい方法論として今後の進展が期待されよう。以上の研究にあたって科学研究費の援助に感謝する。
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