萌芽的研究としてスタートした本研究の目的は、中心質量が600MeV付近の中性スカラー中間子が存在するかどうかを、既に取得された実験データの中からπ^0-π^0チャンネルを選び出すことによって調べることであった。この研究を「萌芽的研究」と位置づけたのは、カイラル対称性の回復、又は、回復の前駆現象を実験的に捉えることを最終目的としていたからであった。 現在までのデータ解析の結果によれば、π^-p→π^0π^0N反応におけるπ^0-π^0不変質量分布の600MeV付近に幅の広いバンプが観測されている。更に、π^0-π^0の崩壊角分布(θφ)は、このバンプがスカラー状態であることを示している。これが、カイラル対称性の破れをひきおこす中性スカラー中間子(σメソン)に対応するかどうかを明らかにするためには、更に詳細なデータ解析が必要であり、又有限温度或いは有限密度でのハドロンの性質の変化を調べる新たな実験が必要だが、萌芽的研究としての第一の目的は達成された。 本研究の成果は、表記の各種の研究会及び国際会議で発表したが、その後、世界各国から本研究の成果についての問い合わせや、更に詳細なデータ解析を進めることを要請する電子メールが届いている。これに対して、高エネルギー物理学研究所でこれまで行ってきたデータ解析を大学で行えるようにして、より詳しい解析を続ける予定である。尚、当初の予定通り、研究の次のステップとして、カイラル対称性回復の前駆現象を調べるための実験(有限核物質中でのハドロンの質量の変化を調べる実験)を、東京大学原子核研究所電子シンクロトロンを用いて行うべく、実験のプロポーザルを提出した。これまでの成果をもとに、現在、その実験準備も進めている。
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