本年度は、主としてAgI薄膜の作成とその電導率測定に重点をおいた研究を行った。 まず、SiO_2またはAl_2O_3基板にAgを真空中蒸着して50〜1000Aの厚さの膜をつくる。次にI_2のガスを膜面上に流す。すると反応によってAgI薄膜が形成される。これは電子線回析、X線回析によって確認した。このようにして得た薄膜について電導率の温度依存性、周波数依存性を20℃〜180℃、100Hz〜10MHzの範囲で測定した。 その結果、薄膜の導電率はバルクと比較して10^3倍程度大きくなっていることがわかった。しかし、調べた膜厚の範囲では、明確な膜厚依存性はみられなかった。またアレニウス・プロットにより、活性化エネルギーは0.31eV程度で、バルクの値0.5eVとくらべて著しく小さくなっていることがわかった。この活性化エネルギーの差が、薄膜における電導率の増加に寄与しているものと考えられる。 導電率の周波数依存性の解釈には、変位電流を考慮しなければならないこと、コンデンサーと抵抗の並列回路によって解釈できること等がわかった。 なお、AgI薄膜と平行して研究を行っている他の超イオン導電体KSnOPO_4(KSP)の導電体のアレニウス・プロットにみられる相転移点におけるピークは、等価回路にあらわれる緩和時間の分布と密接に関係があることがわかった。これは、他の超イオン導電体のアレニウス・プロットを解釈する際参考になる知見である。
|