一般に見られる植物はゲノム数2nの個体からゲノム数nの卵や花粉といった配偶子をつくり、これらが融合(受粉)することによって再びゲノム数2nの個体を再生する。このような有性生殖の世代交代において、配偶子を生み出す減数分裂の過程はゲノム数を維持する上で非常に重要であるがその詳しいしくみはまだ明らかにされていない。このしくみを分子のレベルで理解するためにはこの減数分裂時に特異的に働く酵素やその遺伝子の発現制御の機構を解明する必要がある。しかし酵母のような下等生物では減数分裂に特異的な遺伝子がクローニングされているが、高等生物で確認されている例はほとんどない。植物ではユリからおしべの減数分裂時に発現すると考えられている遺伝子のcDNAクローンが単離されているのみである。我々はこのユリのクローンの分与を受け、分子生物学的な研究に適したシロイヌナズナより相同な遺伝子を単離し、その発現調節機構を明らかにすることにより減数分裂の誘導機構を解明することにした。昨年度、シロイヌナズナLa株とWS株の遺伝子ライブラリーをlambdaファージベクターEMBL3上に作製した。そしてユリのクローン3-33をプローブにしてWS株の遺伝子ライブラリーよりSW28とSW32のクローンを得た。本年度はこれらのクローンにコードされている遺伝子の解析のために遺伝子部分のみをプラスミッドベクターpUC118に移し換えることにした。SW28をPstIなどの制限酵素で切断し3-33をプローブにサザンハイブリダイゼーションを行ったところ、遺伝子をコードしている断片は約3000塩基対のPstI断片であることが判明した。この断片のクローニングを行ったところ相同性のある約3000塩基対のPstI断片を持つ四つのクローンを得た。その内の三つは制限酵素地図から同じものであることがわかった。この2種のクローンはとなりあって存在する可能性が実験により否定されたためSW28上には3-33と相同の遺伝子が二つあることが示唆された。今後はこの2種のクローンの塩基配列を決定するなどの解析を進め遺伝子の性質を明らかにしてゆく。
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